2013年9月8日日曜日

羽持つものたちが宙を飛ぶ今宵、月の光に嫦娥を想う

 空飛ぶものたち、鳥、そして虫。人には翼がない、羽がない。だから空を飛べない。天使は翼で天へ舞い上がる。妖精たちは虫の羽を持って、幻想の夜を飛び回る。

 東洋では、羽衣を纏って飛ぶ天女の姿が一般的。翼や羽ではなく、天の羽衣を纏って、飛び回る。羽衣といっても、羽で作ってあるのではなく、材料は絹。そう、蛾の作った繭からとった、軽やかな絹。

 さて、絹織物といえば養蚕。蚕の原種は山繭蛾。マユガ。
 林の中を探してみると、時々、蛾が抜け出た後の繭が見つかることがある。古代の人々は、この繭をほどいて、糸にしたのですね。そして生まれたのが絹織物。
 山繭蛾の繭は、薄緑色。カイコの糸よりも太く、光沢がある。祖母が子供の頃、子供たちは茂みの中で山繭蛾の繭を集めて、お小遣い稼ぎをしていたと聞いた。今でも、山繭蛾の繭だけを集めて作った織物は高級品なのだそう。

 養蚕のカイコが日本に渡ってきたのは、はるか弥生時代のこと。それこそ、神話の時代に、大陸からやってきたカイコ。
 カイコは、脱皮のたびに、休眠する。一晩、ぴくりとも動かなくなって、それから脱皮。三眠、つまり3回脱皮して大きくなってから、繭を作って籠り、羽化する。カイコは成虫になると口が退化する。成虫になったら、もう食物は摂らず、卵を産んで死んでいく。繭を残して。

 大陸からカイコが渡ってきた時に、機織の技術も渡ってきた。大陸からはさまざまな文化が入ってきたが、その後、徐福の子孫が日本に渡ってきて、秦氏を名乗ったという。彼らは、優れた機織の技術も持ってきたのだろう。秦、それが機織に結びついているのかも知れない。

  嫦娥は、仙薬を飲んで月に昇り、月の女神になったという。その仙薬とは、どのような薬だったのだろうか。嫦娥が、天の羽衣もまとわずに、月に昇ることができたのはなぜなのか。もしかしたら羽衣とは、繭そのものを意味しているのではないだろうか。嫦娥は、繭を作り、そして蛾になって羽を持ち、天をめざしたのではないだろうか。

 たぶん、嫦娥と、蚕信仰もどこかで結びついている。そしてそれが、かぐや姫のルーツであると私は思う。旧暦八月十五日、満月の夜に、月へ帰っていったかぐや姫とは、もしかしたら、嫦娥その人ではなかったのか。

 月にかかった雲が、まるで繭のように光を包む。月の光は無数の糸となって、地上と天空を結ぶ。