2014年9月27日土曜日

ホップは眠り誘う香り、セレスの力を助け、夢の世界へと誘う

「楽しみ、それはビール。苦しみ、それは遠征。」古代メソポタミアの言い伝え。

 が。現代のビールは苦い。ホップが入っているから。ホップ入りのものをビール(Beer)、ホップなしのものをエール(Ale)と呼ぶことが一般的なようである。そして、古代のビールは、ホップなしで、わりと甘い飲み物だった、という説が有力。
 
 紀元前3000年には、すでにビールがあったという。(つまり、それより以前からあったということ。)

 そして、これは大変重要なことであるが!!!
 古代メソポタミアでは、ビールを飲むのは人間の証だと考えられていた。
 ギルガメッシュ叙事詩に登場する怪物エンキドゥは、体を洗い、ビールを飲んで酩酊し、人間になる。つまり、酩酊によって人間の心を与えられたと考えてもよいのではないだろうか。酩酊が神との交流(一種のトランス状態)をもたらしたり、想像力を刺激し、ひらめきをもたらす。
 さらには、気分を劇的に変えて時には別人のようなふるまいかたさえすることもあり、それは他からみたら、他の人格が憑依したように見えることすらあったに違いない。しかも、酔いがさめると、本人にはその記憶がまったくないわけだから、それは自分にはコントロールできない精神世界を体験してしまうことでもある。酩酊だけでなく、夢の世界も、同様に精神世界参入体験である。

(怪物エンキドゥはおそらく原人だったのだろう。が。となると、猿酒を飲んで酔っぱらう猿は、すでに人間に足を踏み入れていると考えてもいいのかも知れず。)
 
 ビールは麦で作る。古代、野生の麦の収穫は、秋分を過ぎた頃だったという。麦の女神であるセレスは、デメテールと同一視されたが、穀物を実らせる豊穣の女神でもあると同時に、冥界の女神でもある。シアリーズ、つまり、シリアルの語源となる名称を持つ女神。

 そして、ビール作りには、セレスの力が必要である。セレスの力というのは、すなわち発酵。発酵と腐敗は紙一重。酵母による発酵は、人類の食文化にとって、どれほど貴重なものであったか!
 古代のビールの作り方は、麦を発芽するまで水に浸し、乾燥させ、挽き、水を加えてイースト(古英語ではGiest。ゲスト、客人。)の力によって発酵させるというもの。
 
 その後、麦汁を腐りにくくするために、ホップが加えられるようになった。ホップには雑菌を抑える働きがある。ホップの原産はカスピ海のあたりで、紀元前から野生のホップが自生していたため、メソポタミア地方では、かなり古くから野生ホップがビールに加えられていたという説もある。が、はたしてこの説はどこまで信憑性があるのかは私には分からない。
 ヨーロッパのビールにホップを加えるようにしたのは、修道女ヒルデガルドだという説がある。が、ドイツのヴァイエンシュテファンのベネディクト修道院にある記録によれば、ホップをビールに入れるようになったのはそれよりも400年も前、西暦736年であるという。
 どうも、いろいろな説があるらしいが、記録が残っているという点で、ヴァイエンシュテファンのベネディクト修道院説が有力であるような気がする。
 
 ホップの代わりに、トネリコの葉、ねずの実、イラクサ、チコリ、ルピナス、エニシダが加えられていた時代もあるし、いまだに、それらの薬草を使用して香り付けがなされているビールもある。
 しかしイギリスでは、エニシダやホップをビールに加えることを禁止していた時代もあった。エニシダやホップには、幻覚作用がある、けしからぬ飲み物だ、というのである。まあ、酒なんて、けしからぬといえばけしからぬ嗜好飲料だけど。ヘンリー8世は、ホップを毒草として使用を禁止した。そう、魔女たちの薬草というわけだ。
 
 というホップの効用としては・・・。
 エストロゲン様作用による更年期障害の改善、睡眠時間延長作用、鎮静作用、胃液の分泌増加作用、イソフムロンの肥満予防効果。
 サッポロビールによれば、ホップ抽出物にホップフラボノール(名前からして、ポリフェノールの一種)に花粉症を軽減する効果があることが突き止められたという。さらには!京都大との共同研究チームが、ホップにはアルツハイマー型認知症の予防効果があることを確かめたと、米科学誌プロスワンに発表した!!
 
 おお、すごいじゃないですか。ホップ。

 おバカな取引先にいらつき、ランチにたべた油物が胃にもたれ、どうも最近体重が増え、もう若くはないわと鏡を眺め、心配事が増えてよく眠れない、というそこのあなた!(&私)、さあ、ビールを飲もうではないか! そして飲んだらぐっすりとおやすみなさいませ。おっと、トイレに行ってから、ね。
 
 おまけ。ホップには、幻覚作用があると言い伝えられている。なにせ、アサ科の植物だから。イギリスでヘンリー8世が毒草だとしたその理由こそ、この幻覚作用である。ただし、ホントにあるかどうかは私はわからない。わからないけれど・・・安眠できたら、きっと楽しい夢がみられるのではないだろうか。
 ホップピロウというのは、乾燥したホップの花びら(ただし、これは毬花といって花弁とはちょっと違う部分だが)を詰めた枕。いわば安眠のおまじない枕。乾燥ホップを枕元に置いても、もちろん同様の効果はあるに違いない。   (秋月さやか)
 

※ 写真は山地に自生するカラハナソウ。ホップの仲間。ホップほど苦くなく、また、香りも弱い。鹿が食べてしまうことがある。なるほど、鹿も安眠したいのか。



参考文献:世界を変えた6つの飲み物 トム・スタンデージ 新井祟嗣訳 インターシフト
参考文献:世界史を変えた50の植物 ビル・ローズ 柴田譲治訳 原書房
参考文献:神々の糧 テレンス・マッケナ 小山田義文・中村功訳 第三書館


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