2015年3月30日月曜日

桜の季節の人気者はクマリ~ン! 「くまもん」ではなく「ラブリン」でもなく「クマリン」! 

 日本人は桜が好き。実際、桜の種類が世界一多いのは日本であるという。山桜、大島桜、彼岸桜、富士桜、緋寒桜、上溝桜、深山桜、などが古くから自生している桜で、それらを原種として交配しながら新種が作り出されてきた。

 たとえば、大島桜と緋寒桜の交配が、最近話題の河津桜。ソメイヨシノは、彼岸桜(江戸彼岸)と大島桜の交配種というように。ソメイヨシノばかりが桜ではなく、ソメイヨシノの前にも寒桜や緋寒桜があり、ソメイヨシノの後に八重や深山桜があり、それはそれは見事なものであります。寒桜は冬至過ぎに咲き、上溝桜は高地では夏至近くになってようやく咲くので、つまりは1年のうち半年は桜の花見ができるというわけですね。ああ、花見、花見。
 
が…。
花見の季節は、花より団子ではなく、花より餅。そう、桜餅!
 
 桜餅には、大きく2種類があるのはご存知かと思います。道明寺粉を使った関西風と、薄焼の皮で包む関東風。しかし、そのいずれであっても、塩漬けの桜葉は必須。とにかく、あんこと餅(あるいは饅頭皮のようなもの)を、桜葉で包んだものが桜餅というわけですから。
 
 花を眺めながら、葉を食べる、つまりはそれがお花見ということですね。葉はもちろん、前年の葉を塩漬けにしたものですが、しかし、ソメイヨシノの葉ではありません。

 日本の桜葉の塩漬けの大部分を生産するのが伊豆松崎町。そして用いるのは大島桜の葉。大島桜は伊豆大島に生える桜で、もちろん伊豆松﨑町は、大島桜の生育に適した土地であるということもあり、ほとんどの桜葉はここで生産されるのだとか。
 
 桜葉の塩漬けは、自宅でも簡単にできます。大島桜ではなく、葉の柔らかい種類ならなんでも。吉野桜でも、八重桜の葉でも、山桜の葉でも。ただし、ポイントがひとつだけ。夏になる前に(葉が固くなる前にっていうことです)摘み取ること。そして、豆桜や富士桜は、小さくて固い葉なので、ちょっと無理です。
 
 そうそう、あんこと餅(あるいは饅頭皮のようなもの)を桜葉で包んだものが桜餅なので…。
そう、自宅で作るにはどうしたらいいかっていうこと。

 いちばん簡単な方法をお教えしましょう。大福を買ってきます。半分に切ります。桜葉で巻きます。はい、出来あがり。簡単なわりに、これはわりといけますので、ぜひ試してみてください。
 クレープの皮をフライパンで作り、あんこや羊羹を包んで桜葉を巻くという、中級者向けのバージョンもありますが、とにかく桜葉の塩漬けさえあれば、アレンジ次第で、いろいろなものが作れるのであります。
 
 長命寺の桜餅は、山本屋が墨田川の堤の桜の葉を塩漬けにして作ったという歴史があるのですが(長命寺の門番であった山本新六が、土手の桜の葉を用いて塩漬けを作りはじめ、享保の時代に江戸向島の長命寺の門前にて売り出したところ、これが大当たり!)、
 しかし、山本屋の桜葉は、ソメイヨシノのものなのでしょうか? 見たところ、大島桜のように見えるのですが…さあて。
 ソメイヨシノと大島桜の葉の見分け方としては、葉の表面に生えている毛だそうです。大島桜は、毛がなくてつるつるしているのだそうです。買って帰るやいなや、待ち遠しくてすぐに食べちゃう桜餅ですが、こんど、葉をじっくりと眺めてみましょうか。

 いやあ、花見はおいしい。…じゃなくて楽しい。桜の花を眺めるだけでも、なんだかうきうき、楽し気分ではありませんか。それはきっと、クマリンのおかげなんですよ。そう、クマリンの。

クマリンの正体やいかに… 
 桜葉のあの独特の香り。その芳香成分がクマリン。そう、クマリンの正体は芳香成分なのでありました。あの香りがなかったら、桜餅じゃないって。
 そしてクマリンには、なんと抗酸化作用があるのだとか! つまり、アンチエイジング若返り成分の香り。すごいでしょう、クマリン。ただし、クマリンを大量に採ると毒ですので、香りを楽しむ程度で。そして、クマリンは、桜葉をしばらく塩漬けにしておかないと生成されません。桜の秘密、クマリン。
 
 桜は花(つぼみ)も塩漬けにして食べます。どんな桜であっても可能ですが、こちらは、色が鮮やかで花びら量が多い八重桜で作ることがほとんど。色を鮮やかに出すために、塩だけでなく、酢(梅酢)も入れて漬けるのだとか。もしかしたら、河津桜でも出来そうではありますが。
 結納の席などで出てくる桜茶だけでなく、和菓子や料理の色どりなどにも使われます。私は、甘酒に入れるとか、大根の甘酢漬けに入れるとかしていますが。
 
 桜は皮も薬用になります。桜皮を煎じて飲むのです。苦いのですが、ほのかに桜の甘味が漂うような味がします。私の叔母が子供の頃、春先になって目が痒くなると、祖父と一緒に山に桜皮を採りに行ったといいます。春先のかゆみに桜皮、古くから言い伝えられている民間療法です。桜皮は、漢方薬店でも買えます。
 
 桜はもちろん実をつけます。上溝桜(うわみずざくら)という高地に自生する桜は、一見、桜の花らしからぬ桜です。その実は果実酒にするのですが、これ、「あんにんご」と呼ばれます。アンズの種子(杏仁/キョウニン)に似た芳香であるため、「あんにんご(杏仁子)」と呼ばれるようになったのだとか。(中華料理の杏仁豆腐は、アーモンドエッセンスを使用しますが、あの香りです。)
 なんと。上溝桜の種子は不老長寿の薬酒になるという言い伝えがあり、西遊記の三蔵法師は、ウワミズザクラの種子を捜し求めて旅に出たのだとか。えっ?天竺に経文を取りに行ったんじゃなくて、不老不死の薬酒を探しに?! 

 ただし、桜の中でも、実生で増えることのできない桜があります。それは…ソメイヨシノ。ソメイヨシノは、江戸時代に作りだされた、ただ一本のソメイヨシノを親木として広まったクローン桜なので、実生で増やすことはできません。実をつけることはつけるのですが、その実を蒔いても、ソメイヨシノにはなりません。しかし、接ぎ木でその命を長らえていくという、これまた不思議な桜なのであります。
 
 桜は、不老不死の力を秘めていると考えられた植物でありました。
 コノハナサクヤヒメは、富士山の上から桜の種を蒔いて花を咲かせる女神であったと言い伝えられます。桜が咲くと春。そして地上は若返り、新たな緑が地上を覆う。新たな生命の息吹を与える女神が、コノハナサクヤヒメであったわけですね。

 そして、桜に含まれる抗酸化作用のある芳香成分クマリン。桜が咲くと、なんとなくうきうきして若返るという人、多いような気がしますが。それは芳香成分クマリンのなせる技なのですよ、きっと。     (占術研究家 秋月さやか)

※写真は大島桜。





2015年3月29日日曜日

流行り風邪には、「久松留守」よりも「生姜在宅」のほうが撃退の呪文になること間違いなく

そもそものはじまり
 先日、茨城へ行って叔母の家に一泊した次の朝のこと。起きぬけからどうも喉が痛い。と思ったら、足に力が入らないし、腰が痛いし、瞼も重い。…えっ?! もしかしたらインフルエンザ?!

 「具合悪いの?」と叔母は心配してくれたのだが、インフルエンザ菌保有者が老夫婦の家に長居して感染なんかさせたらとんでもないことなので、「じゃあ、帰るからね~」と、なんでもないふりをしつつ、さっさと車に乗る。約300キロ近い距離、元気な時ならなんということはないが、頭と瞼が重くてどうしようもないのをこらえながら、300キロの距離を運転するのはちょっと辛い。

そして生姜を買う 
 それでも帰る途中、スーパーを見つけて立ち寄り、生姜一袋を必死に探し出し、ついでにサプリ1本でお会計。風邪のひき始めはビタミンCと水分と、そして生姜!

 ガリガリとすりおろした生姜を椀に入れ、お吸い物のモトを入れてお湯を注ぐ。これで出来あがり。口の中がひりっとして、それから体がじんわりと温まってくるし、胃もなんとなくすっきりしてくる。これさえ飲んだら、あとは寝るだけ。そう、生姜のすりおろし入りの汁、これが風邪の特効薬!
 
 生姜(Ginger)。アジア原産の植物で、中世ヨーロッパではエデンの園由来の植物だと考えられていたらしい。生姜は高温多湿の熱帯地方でよく生育する。ヨーロッパではまったく育たなかったことから、輸入に頼っていたようで、そういえば、ミカエルマスの日には、生姜の砂糖漬けを食べるんだったっけか。生姜はあのカレーに入っている黄色い粉、ターメリック(うこん)の近縁種でもある。
 
 生姜の成分のジンゲロール(Gingerol)は乾燥するとさらに強い刺激を持つショウガオールとなる。というか、ジンジャーに含まれていたから⇒ジンゲロール、ショウガに含まれているから⇒ショウガオールって名づけられたわけですが。これらは、吐き気や頭痛を緩和し、なんと低体温状態を改善する効果があるという。さらには。関節リウマチの痛み緩和もしてくれるし、乗り物酔いにも効くらしい。もちろん、殺菌作用もある。なんともすごい薬効植物ではないですか。
 
 我が家では「しょうがない」という状況は好ましくないものとして、いつも冷蔵庫には生姜常備。アジの刺身に、厚揚げの焼いたのに、スーパーの割引の芋天に、生姜醤油は欠かせない食材。えっ?チューブの生姜があるって? う~ん、あれはだめです。苦いでしょ。

 どんなに面倒でも、生姜は都度、すりおろすに限ります。あの香りが、チューブの生姜にはありません。それに、香りも薬効のうち。揮発性の成分もあるから。

 
 とまあ、すっかりと和の食材になっている生姜だが、生姜は日本に大陸から渡ってきた帰化植物なのである。といっても、奈良時代にはすでに栽培されており、古事記にも記載があるから、有史前帰化植物というやつね。

 古くは「はじかみ」と呼ばれた。山椒を「ふさはじかみ」、生姜を「くれのはじかみ」と呼んでいたという。呉竹(くれたけ、はちく)のように、長く伸びる茎を意味する言葉から、「くれのはじかみ」となったのかも知れない。(推測)。で。はじかみって何?ということですが、辛くて顔をしかめる様を「はじかむ」と言っていたらしく、「はじかみ」は刺激的な味をあらわす言葉であるという。

(はじっこをおそるおそる噛むぐらい辛いのか?などという推測もしてみたのですが。ということは、もしかして、はにかむっていうのも、この系列の言葉なのか? ハニーカム!愛する人よおいで、が語源のわけはありませんからね。念のため。)
 
 大陸からは生姜だけでなく茗荷も渡ってきたのだが、香りの強い生姜を「兄香(せのか)」、香りの弱い茗荷を「妹香(めのか)」と呼び、それがいつの間にか「せのか⇒せうが⇒ショウガ」、「めのか⇒めうが⇒ミョウガ」となまっていったという説がある。

 ほほ~、ショウガが兄で、ミョウガが妹なのか。兄妹はちょっと苦しいな。従兄妹ぐらいならわかるのですが。まあ、谷中生姜に茗荷谷と、どちらも半日蔭の湿地、谷間を好んで生育する植物。生姜も茗荷も、日本の気候風土に合っていたらしく、いまでは、すっかりと和食には欠かせない食材になっているわけであります。
 
インフルエンザという流行病 
 さて、インフルエンザはヒポクラテスの時代からあった病で、日本では平安時代に「しはぶきやみ」という病名で呼ばれていたらしい。しはぶき、は咳のこと。咳をする病であるから、結核も肺炎も風邪も「しはぶきやみ」ではあるけれど。

 その中でも、いきなり発症してしかも大勢の人が感染するものが、江戸時代に「はやりかぜ」と呼ばれるようになる。流行り風。インフルエンザ菌は、空気中をうようよしているので、たしかに風が吹いただけで、菌は四方へ広がってしまうわけですよ。なるほど。
 
 そもそも、「インフルエンザ」は、16世紀のイタリアの占星術師(注・医者を兼任しているオカルティストのことを意味していると思われる)たちが、冬に流行し、春になると終息するという周期性から、それは星の運行の影響によって起こる病であると考えたようで(!)、「影響」を表すラテン語(influenctiacoeli)にちなんで「influenza」という病名にしたんだそうである。

 星の影響はないと思うが、しかし、彗星がインフルエンザ菌をまき散らすと言う説は今でもあったかと。

 インフルエンザには流感(流行性感冒)という呼び名もあるがごとく、とにかく、一時的に流行る病。まるで巷で話題になる流行的なエンタメ現象とも似通ったところがあるし、そうそう、恋もそうだった。恋も流行もインフルエンザも、発症すれば熱を上げ、熱が冷めれば、ほどなく病が治る。
 
 寛政年間、1792年頃に流行ったインフルエンザは、当時、流行っていたお芝居、「お染久松」にちなんで、「お染風」と呼ばれていたそうである。そう、お染久松は恋仲だったわけですね。油屋の一人娘お染が、許嫁がありながら丁稚の久松と恋に落ち、心中を遂げたという実際にあった事件(スキャンダル)を元にした物語なのであります。
 とにかく当たったお芝居ですから、巷はその芝居のうわさでもちきり。「ねえねえ、もう観た?」「観たわよ、久松かわいそう」「そうかしら、お光(久松の縁談相手)のほうが切ないわ」「ああ、恋って悲しいわ~」と、江戸時代の乙女たちが、熱を上げたラブストーリー、それが「お染久松」。いってみれば、江戸のロミオとジュリエット物語みたいなもの?
 
 そして、そのお芝居と同時期に流行ったのが、インフルエンザだったというわけですね。そこで、インフルエンザ除けのまじないが、「久松留守」の張り紙! 久松が留守だから、お染風は入って来るな、という意味なのだとか。
 
 その後、1890年(明治23)に大流行したインフルエンザも、「お染風」と呼ばれ続けたようです。インフルエンザの致死率はかなり高く、それこそ、まじないでもなんでもすがれるものならすがっておこう、という風潮だったようで、「久松留守」の貼り紙が復活。

 まあ、呪符というのは、そのもとの意味が何であるかよりも、使われ続けているということのほうが重要なのでありましょう。他にも「家内一統留守」という張り紙もあったらしい。
 といっても、いっそ、門口に乾燥した葛の根や生姜でも括りつけておいたほうが、はるかに効き目があったのではなかろうかと思う次第。そう、「久松留守」だけじゃ手ぬるい、「生姜在宅」という呪文を加えたらどうだろう、などと、熱のある頭で朦朧と考えてみる。
 
 インフルエンザは、進化する病である。大正時代に入り、1918年のスペイン風邪は世界的に流行し、インフルエンザの大流行(パンデミック)となる。日本では当時の人口が約5,500万人、そして死者の数39万人。その死者の中には、東京駅の設計を担当した辰野金吾、劇作家の島村抱月などの名前がある。松井須磨子は、抱月がインフルエンザでこの世を去った2ヶ月後に、後追い自殺をしている。「抱月留守」で、あの世まで追いかけて行ったという成り行き。死ぬまで醒めない恋もあるのだろう。
 
 さて、翌日、熱でふらふらしながら、インフルエンザかどうかの判定に私は病院へと出かけた。すごいね、鼻の中に綿棒を突っ込んでしばらくすると、インフルエンザかどうかが判定できるんだから。結果は陰性だったけれど、しかし、症状はインフルエンザ並みにすごくて、いやあ、久しぶりに抗生剤を服用しました。

 とにかく、人混みの中で感染してしまう危険性のあるインフルエンザはやっかいな病気で、マスクをしている人の姿も最近は増えたようですが、マスクと手洗いは必須。

流行情報にも感染しないように
 ところで、現在、インフルエンサーとは、世の中で人々の購買意思決定に影響を与える人のことを言うのだそうですね。タレントも作家も、流行を作り出す存在は、人々を感染させるインフルエンサーということなのだそうです。

 しかし、できれば、そういったものは距離をおいて眺めつつ、感染したくはない、少なくとも膏肓に入って欲しくはないと思う私でありました。SNSも、自分なりのフィルターをかけつつ、情報を取捨選択したいものですし、いっそのこと、乾燥させた生姜の根っこでも魔除けに持ち歩きましょうかね。                              (占術研究家 秋月さやか)