2016年9月24日土曜日

勇者ミカエルは、万能薬ショウガオールを手に入れ闇のドラゴンに立ち向かった! 

 生姜の原産地はインドであろうと言われています。生姜は、カレーに使用するスパイスであるターメリックなどの仲間。

 乾燥生姜は、古くからヨーロッパ、古代ギリシャやローマに渡って薬として利用されていたということですが、ヨーロッパでは生姜が生育しにくかったため、産地であるインドからの輸入品。つまり、生姜はオリエントの味覚ということ。

(東方見聞録を書いたマルコポーロが、インドで初めて生の生姜を見たというような話が記載されているぐらい。)

 ちなみに、14世紀のイギリスでは生姜は大変な高級品で、1ポンド(約450g)は羊一匹と等価だったということである。

 現在スーパーで売っているひね生姜は、小袋ひとつ、だいたい80g~100g。ひね生姜を乾燥させると、水分が抜けて5分の1から6分の1ぐらいの重さになるので、ということは、450gの乾燥生姜を作るには2~3㎏ぐらいのひね生姜が必要。
 ひね生姜1袋。安売りなら150円ぐらいで売っているんでしょうか?(産地指定などにこだわらないとした場合)。ということは、ひね生姜3500円分ぐらいを乾燥させれば、羊1匹が手に入る? メェエエ~
 とまあ、当時はそのぐらい乾燥生姜は高級品だったということですね。
 
 そして9月29日の「ミカエル祭(Michaelmas)」。
 つまりは秋分祭が起源だと考えられるこの祭典の主役は大天使ミカエルで、ミカエルは剣を持った有翼の勇ましくりりしい姿でドラゴンを退治するスーパーヒーロー、勇者。
 この場合のドラゴンは、疫災の具現化みたいなもの。一説によればミカエルは堕天使サマエル(もしくは闇のドラゴン)と双子の兄弟であり、堕落したサマエル(ドラゴン)と争う宿命を背負っているのだとか。
 それは、光と闇が鬩ぎ合うという秋分の性質を意味しているもので、そのためミカエルは、右手に剣、左手には天秤秤を持つ姿で描かれることもあるわけですが、天秤っていったら。そう、アストレイアの天秤。

 疫災のひとつには病があるわけですが、昔は、病は悪魔(魔物)によって引き起こされるものでありました。
 
 つまり、体内の免疫系がミカエルで、感染症がドラゴンというような感じなんでしょうか。となると、免疫系のミカエルを助けるのが、エリクサーとしてのジンジャー(ショウガオール)!
 そう、大天使ミカエルは、万能薬のショウガオールを手に入れて、闇のドラゴンに立ち向かう!

 もしかしたら、桃太郎の黍団子みたいに、ジンジャークッキーをやるからドラゴン退治のお供をしろと仲間を集めていたんじゃなかろうか・・・(というのは嘘ですが。しかし、中世ヨーロッパでは、ジンジャークッキーは高級品だったことは間違いなく。


 とにかくそういうわけで、ミカエルマスの門前市では生姜が売られる。これがヨーロッパの9月の風物詩ということです。

 おや、芝明神の生姜市みたいな。時期も9月、ほとんど同時期ではないですか。
 しかし、ミカエルマスに並んでいるのは、芝明神のように生の生姜ではなく、乾燥生姜という違いはありますが。

 乾燥生姜の香りは、新鮮なシネオールの香りとはちょっと違う感じ。ジンゲロール(体の余分な熱を取り、体温を下げる)も、ショウガオール(体を温める)に変化しているわけですし。
 乾燥生姜は、これからやってくる寒い冬を乗り切るために必要な薬でもあったのでしょう。

 ヨーロッパでは、生姜を料理に使うことはあまりないようです。ジンジャースープなんていうレシピは聞いたことがありませんし、いっそ、ミカエルマスにはガチョウのジンジャー煮込みでも作ってしまえばいいんじゃないかと思うわけですが、なぜかジンジャー煮込みもない。

 ヨーロッパで生姜を使った食べ物といったら、まずはジンジャーエールでしょうか。
 昔は、エール(アルコール分の強いビール)の中に乾燥生姜をスパイスとして入れた飲み物であったようです。(今では生姜パウダーをサイダーの中に入れたもの、つまりアルコール抜きがジンジャーエールと呼ばれていますが。)
 
 そしてジンジャークッキー。これはジンジャーパウダーを練り込んだクッキー。さらにはジンジャーシュガー。
 といっても、ジンジャーシュガーは、伊勢土産の生姜板とはちょっと違う。生姜を薄くスライスして、砂糖を入れて煮詰めたグラッセを乾燥させたもの。
(ひね生姜をスライスして茹でこぼしてアクを抜き、砂糖を混ぜてゆっくりと煮詰めて作ります。)
 
 朝夕、冷えこんでくる季節にはジンジャーエールが喜ばれたに違いないし、ジンジャークッキーやジンジャーシュガーも、紅茶のお供としての「体にいいお菓子」だったのでしょう。

 神社とか教会とか、人々が健康であることを願う場所には、病気を癒し、健康によい薬効のある食べ物の知識が集まっていたということ。
 そして生姜は、日本でもヨーロッパでも、珍重された薬効植物であるということです。

@紅茶


おまけ。ジンジャークッキーを食べるたびに思い出す、どこかの港町の話


 中世、イギリスのある港町に生姜を山積みした船がつきました。その船にはミカエルマスで売るための生姜が積まれていましたが、しかし荷降ろしをする前に、高い税金を支払うことを求められます。船の持ち主は、高い税金の支払いを拒否し、船に積んであった生姜をタダで人々に配ってしまったということです。
 
 私はこの話を、子供の頃、綺麗な缶入りの輸入品(舶来品といったほうがいいような)ジンジャークッキーを毎年くださる方から聞きました。私は、お歳暮にクッキーをいただいていたとずっと思っていたのですが、改めて考えてみると、もしかしたらミカエルマスにいただいていた可能性もありえます。
 そのイギリスの港町とはどこであったのか。いや、イギリスだったのか、フランスだったのか、それさえも曖昧なのですが、とにかくヨーロッパのどこかの港町のお話のようです。

 私は、ジンジャークッキーを食べるたびにこの話を思い出し、そのたびに、ドーバー海峡の灰色の波と白い岩肌の向こうにある、どこともわからない港町の映像を思い描くのでありました。

 賑やかな市、手品師やお菓子を並べた屋台に着飾った人々。そして、綺麗なジンジャークッキーの缶。
 どんよりと曇った晩秋の日の午後に熱い紅茶を入れ、綺麗なジンジャークッキーの缶を開ける時、なにやらそんな賑やかな市の様子が、ふと想像できるような気がして。

        (占術研究家 秋月さやか)




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