2016年7月17日日曜日

新月の闇の中、レプトケファルスは無意識の海から孵り、幻の大陸をめざす

レプトケファルスは鰻の稚魚。透明な体をしているため、英語ではグラスイール、日本ではシラスウナギ。6月から7月にかけての新月の晩に、深海の底の真っ暗な海の中で孵る透き通った体。それがレプトケファルス。

 鰻はその生態に謎が多く、誰も鰻の卵をみたことがなかったため、アリストテレスは鰻は泥の中から自然発生するとか、テキトーなことを言っていたようですし、日本でも「山芋変じて鰻になる」とか、これまたいいかげんなことが言われていたわけで、鰻の発生がオカルトだったという話です。
 しかし、20世紀に入り、ヨーロッパ鰻の産卵場所はサルガッソ海、日本鰻の産卵場所はマリアナ海溝ということがようやく突き止められました。アリストテレス大先生もびっくりでしょう。
 
 ところで。鰻の話の前にフロイトの話をします。(ちょっと長い説明になるけど、なるべくはしょって書く。)
 私はとにかくフロイトはすごい人だと思うわけですが、天才も天才!と思ったのは、無意識という概念の提唱者であったということ以上に、「人間は本能が壊れてしまった病気の状態で、だから全員、おかしいのだ」というところからスタートしているということを知った時です。
 そう、よくぞ言ってくださいました。エデンの園を追い出されてからの人間は病んでしまったわけで、しかし、エデンの園にはもう戻れないので、カウンセリングとかで、なんとか折り合い付けなきゃならないわけですね。
  
 人の心の中には(意識されない領域としての)「無意識」があると提唱したのはフロイトで、理由がはっきりとしない心身の不調は、この無意識領域に抑圧されたコンプレックスが原因であるとしました。
 コンプレックスは本人とっては(たいていは)不快な記憶であるため、意識なんかしたくないわけですが、でも、無意識下にあるそれらのコンプレックスは、本人の心身になんとなく影響を与えていたり、ある時、意外な方向で運命を操ってしまったりするわけです。
 なぜ人は、自分が望んでもいないことをしてしまうのか。(そして人生を不本意に破壊してしまうのか)。 それは無意識下のコンプレックスが原因だとフロイト大先生は考えますが、ではどうやってそれらを解きあかすのか。それこそ、深海に沈んだ幽霊船をひきあげようというような話です。

 そこでフロイトは夢に注目します。眠っているときは自我が弱まり、外界に対する防衛本能が低下するため、抑圧された願望が開放されて夢の中に自由にあらわれることがあると考えたわけですね。
 つまりは、深海に沈んでいた幽霊船が、海面に浮かび上がってくるようなもの?!無意識とは、実現されない願望の眠る深海のような場所だということでもあります。
 しかし、フロイトがこのあたかも深海のような無意識という概念を思いついたのは、もしかしたら「鰻」が原因じゃないの?と私はなんとなく思ったわけ。

 さて、フロイトが、かつて鰻の生殖腺の研究をしていたというのは有名な話ですけど、
鰻を調べまくった研究者たちは、鰻に性別があるかどうかもはっきりしないと言って首を傾げていたわけです。そして19世紀後半、ジークムント・フロイトは雄鰻の精巣を発見! これで鰻には雌雄があることがわかったわけ。いえ、鰻にカウンセリングしたわけではなく、解剖したわけですけどね。
 が、その後、さらに衝撃の事実が! それは鰻の幼魚はすべて雄で、水質や餌など過ごした環境によって性転換して雌になるものがあらわれるのではないか、ということです。
 それがわかったのはわりと最近のことなので、フロイト先生はそれを御存じないと思う訳ですが…。
 
 ヨーロッパ鰻の産卵場所がサルガッソ海であることを証明したのはデンマークの海洋生物学者ヨハネス・シュミットですが、サルガッソ海といったら、船舶が沈没したり行方不明になる「魔の海」伝説で知られ、だいたいバミューダトライアングルと呼ばれるあたり。
 伝説では、この海域は凪になることがあり、何週間も船が動けずにいる間に船体に海藻が絡みついてしまうとか、無人となった船は、その後も幽霊船となって長い間この海域を彷徨うとか。おまけにリバイアサンが出没するとか。無意識の魔界のようなところですな。
 しかしサルガッソ海に集まるのはリバイアサンではなく鰻なのでありました。ヨーロッパ鰻のサルガッソ海での産卵は、冬から春にかけての新月の晩に行われるということですので、だいたい2月ぐらいかな。
 
 一方、日本鰻の産卵場所はマリアナ海溝付近、つまりグアムのあたりの深海。海の中でもっとも深い海。日本の河川で大きくなった鰻たちは、産卵のためにマリアナ海溝をめざし、6月から7月にかけての新月の晩に産卵し、稚魚はその後、北上して日本の河川をめざすというサイクルとなります。
 
 産卵場所が決まっている魚といえば有名なのは鮭で、鮭は河で孵って海に下って大きくなり、河に戻って卵を産む。なぜ鮭が生まれた河に戻ってこられるのかっていうと、それは鮭が生まれた河の水を覚えているからだという。
 鰻のほうはというと、海で生まれて、河をめざし、そして再び、海に帰るわけですが、しかしそれはやはり鮭と同じように、鰻が生まれた場所の水を覚えているからだろう、と言われているわけです。
 つまり、鰻の祖先はマリアナ海溝付近で生まれたに違いなく、生まれた場所の水を覚えていて、そこに戻って産卵する習性を失っていない、ということ。…しかし、なんでマリアナ海溝?
 
 その昔。太平洋に大きな大陸がありました。その大陸の大部分は、ある時、海の底に沈んでしまうが、沈まずに残ったのが、グアムやサイパン、太平洋の島々、台湾や日本だというわけです。その大陸とはムー大陸。つまり、鰻はかつて、ムー大陸の河川(汽水域)で生息していた川魚であったのではないか、という仮説があるのです。
 ムー大陸が沈んでしまい、やむなく鰻は海を泳ぐことになり、が、本来が川魚であるから、河川を遡る。そして生まれた水を覚えている習性から、産卵には、海に下ってマリアナ海溝に戻っていくのだ、と。
 鰻はとても嗅覚が敏感で、水のにおいをかぎ分け、その嗅覚は犬よりも鋭いのだとか。鰻犬って、ここから来ているんでしょうか?(違うか) ムー大陸の水のにおいに導かれた鰻たちは、6月から7月にかけての新月の晩にマリアナ海溝に集って産卵する。
 
 もしもこのムー大陸説が正しいとなれば、ではサルガッソ海は? サルガッソ海には、かつていったい、どんな大陸があったのか。そこで当然考えられるのが、プラトンがその著作の中で言及したというアトランティス大陸!
 プレートテクトニクス理論に基づいて考えると、大西洋の両岸の海岸線を近づけてもキューバのあたりで大きく隔たりがあり、それはここにかつてあった陸地が沈んだ可能性を想像させるものであり、その陸地とは、アトランティス!
 
 鰻はヨーロッパの河川から大西洋に出て、わざわざメキシコ湾流を逆流して、メキシコ沿岸のサルガッソー海で産卵し、サルガッソ海で孵化したレプトケファルスは、メキシコ湾流に乗ってヨーロッパまで移動するということですが、その不自然な動きから、かつて大西洋上には陸地があり、何らかの原因で、この陸地が消失したためメキシコ湾流がヨーロッパ沿岸に到達するようになり、鰻はその流れに従って、奇妙に思える生態行動をとっているという説が唱えられているわけです。何らかの原因とは、その陸地が沈んじゃった、ということですね。
 
 となると、鰻の記憶の中に、ムー大陸はあるのか?アトランティス大陸は?はたして深海の眠りの中で、レプトケファルスは古大陸の夢をみるのか? 
 新月の夜、鰻たちは深海の底で孵り、そして記憶を呼び覚ましてかの地をめざす。古の失われた故郷を。
   (占術研究家 秋月さやか)

※ この画像は、登録済の素材辞典より。



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