2013年10月18日金曜日

非時香菓(ひじのかぐのみ)は、この世の欝を、時を忘れさせる黄金の果実

 伊豆近辺は蜜柑の産地。伊豆の海、ふりそそぐ太陽の陽射しを浴びながら輝くオレンジ、レモン。思わず、「オーソレミーオー、今夜はイタリア~ン」と歌っちゃおうかな!
 
 オレンジ、レモンは、蜜柑、柚子と同じように中国原産で、その種子が鳥に運ばれて、地中海にまで広がったのだという。
 日本原産の柑橘類としては橘(ヤマトタチバナ)と辞典には書かれている。日本原産とはいうけれど、これは常世の国から持ち帰った霊薬「非時香菓(ひじのかぐのみ)」という伝説があるから、たぶん、南の地から渡ってきたものなのではないだろうか。それにしても、非時(ひじ)とはどういう意味なのだろう。
 
 さて、私は、極早生の蜜柑が大好物なのですよ。10月に入ると、スタンバイ。いつ極早生が実るか。それは年によって異なるので、天気を見ながら蜜柑園に電話をし、今日か明日かと、待ち続ける日々。
 極早生の、皮が緑色の、朝採り。ああ~、蜜柑はこれに限る! しかもそれは極早生が出てから1週間という期間限定。なぜなら、すぐに黄色く色づいてしまうから。
 酸味たっぷりのその味も素晴らしいが、魅力の本質は緑色の皮。緑色の皮を剥く時、皮からアロマオイルがしゅっと噴出。その香り! 皮に鼻を押し付けて、私はうっとりと酔いしれる。この香りは、採ってから2~3日ぐらいでなくなってしまうので、遠方から運んできた極早生蜜柑では望むべくもない。そしてなんと、この香りには、欝を吹き飛ばす効能があると言い伝えられているのですよ。

 アールグレイの香り付けに使用するベルガモットはカナリア諸島に自生していた柑橘類である。それをコロンブスが地中海に伝えたという。(ただし、自生といっても、その源はやはり中国の蜜柑なのだそうである。おそらく、鳥によって種子が運ばれたに違いなく。)
 ベルガモットは、緑色の固い柑橘で、実を食べることはほとんどない。その皮の香りが貴重なのだという。柑橘の香り、欝を忘れさせる香り。

 カナリア諸島は大西洋に浮かぶ7つの島で、ヘスペリデスのモデルになった場所と言い伝えられている。ヘスペリデスはギリシャ神話に登場する楽園で、黄金のりんごが実る場所。ということは…黄金のりんごとはベルガモットの果実だったに違いない。え?林檎の正体は蜜柑だった?という、これもまたややこしいお話なのですが。

 ベルガモットの香りが立ち込める島、それはまさに地上の楽園。この世の欝を忘れさせる香りが立ち込めている場所なのだから。欝を忘れる、それは、わずらわしい日常、現世を忘れるということなのだろう。
 橘の花の香りをかいで昔の人の袖の香りを思い出すという歌がある。柑橘の花は、甘やかな過去へと心を引き戻す。そして実の香りは、未来への不安を消し去るということなのだろう、きっと。
 
 ところで、カナリア諸島といえば…そう、この島に生息していたフィンチが、カナリアと名付けられて、愛玩鳥として世界中に広まったのです。ベルガモットの香りの中でさえずっていた小鳥たちです。


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