以仁王のクーデターの話となれば、源三位頼政です。
帝のおかげんが悪くなり、魔物に憑かれているのではないか、ということになります。頼政が御所を警備していると、丑寅の方角から黒雲がわきおこり、その中から魔物登場!
顔が猿、胴体が狸、手足が虎、尾が蛇というキマイラ、鵺(ぬえ)です。そして頼政の放った矢により、鵺は退治されるという筋書き。
が、つまり、この鵺ってムササビではないでしょうかね。ムササビは、木の洞に巣を作りますが、屋根裏などに住み着くこともあるのです。
知人の喫茶店の庭にムササビの住んでいる木があります。昼間は寝ていますからまったく出てきません。日没30分後ぐらいに滑空を開始するというので、見に行きました。暗闇の中で、目が2つ、赤く光っていましたが、暗くなっていたので、滑空の姿は撮れませんでした。
夜、木立の間をばさばさっ、と飛ぶ音が聞こえることもあり、まあ、それはそれで不気味ではあるのですが、狼や熊のように人を襲うというわけではありません。
一般に鵺の鳴き声、と言われているものは、とらつぐみという鳥です。深夜、ピー、という笛の音が響くように聞こえてきます。ピー、… ピー、… ピー、…。音色の異なる2羽の鳥が、鳴き交わしているので、交互に、異なる方向から音が聞こえてくるのです。鳥ですから、音はしだいに移動していきますし、山の中では音が木に反射して、どちらから聞こえてくるのか、よくわからなくなってきます。だから、音を追って行くうちに山中深く入り込んでしまうといいます。
姿がキマイラ、どこで鳴いているのかわからない。となれば、これはまさに夜の闇が生み出した怪物でしょう。
ただし、それは、山中の闇ではありません。都に渦巻いている怨念の闇です。歴代、帝や貴族たちの不安が、得体の知れない妖怪を生み出してしまったということでしょう。
吉川英治「新・平家物語」では、「源氏でありながら、平家方についている自分(頼政)も鵺のような存在である」と、頼政自身に、自嘲気味に語らせているのですが、都人として、武士としての宿命ゆえに、鵺を退治しなくてはならなかった頼政の立場というものもあります。
能の「鵺」は、源三位頼政に退治された鵺が化けて出る筋書きです。鵺からしてみれば、「源三位頼政という武士に殺された、やれ口惜しや」というところでしょう。人々は、退治した鵺の祟りを恐れ、体を切り刻んで笹船に乗せて流した後、鵺塚を建てたといいます。
※ ムササビの住んでいる木。昼間なので、何も見えませんが、中に住んでいるのです。
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